板金豆知識

スポット溶接「剥がれの原因と対策」まとめ

2010年3月25日 公開  / 2026年1月14日 更新
技術

金属溶接の種類とスポット溶接の重要性

金属同士を接合する溶接には、熱源や方法によってさまざまな種類があります。

  • アーク溶接(融接):アーク放電の熱で母材を溶融させて接合する方法(例:被覆アーク溶接、TIG溶接など)。
  • レーザー溶接:高密度なレーザー光を集光し、その熱で溶融・接合する方法。
  • 抵抗溶接(圧接):母材に電流を流し、その電気抵抗による発熱(ジュール熱)と加圧で接合する方法。

ここでは、この抵抗溶接の代表格であり、家電製品(冷蔵庫、エアコン、テレビなどの筐体など)から電子部品(基板、センサーなど) 、そして自動車業界まで幅広く利用されている「スポット溶接」に焦点を当てています。

スポット溶接は迅速かつ低コストで高い生産性を誇る一方、接合部の「剥がれ」という重大な欠陥が発生することがあります。この剥がれは製品の安全性や耐久性に直結するため、その原因を理解し、適切な対策を講じることが大切です。

特に精密板金での事故において、スポット溶接加工の剥がれは最大の欠点となり得ます。品質不良原因の多くは適正電流不足に起因します。

本記事では、スポット溶接の仕組みから、剥がれが起こる原因を詳細に解説し、具体的な対策、さらには破壊検査による品質管理の方法までを網羅的にご紹介します。

そもそもスポット溶接とは

スポット溶接は、抵抗溶接の代表的な溶接です。
抵抗溶接とは、金属を重ねて電極で挟み、大電流を流すことで発生する「 抵抗発熱(ジュール熱)」を利用して接合する溶接方法です。接合部を加熱しながら同時に加圧することで溶融接着します。自動車のボディからスマートフォンの部品まで幅広く使われ、自動化が容易で、かつ作業者の熟練度に左右されにくいという特徴があります。

スポット溶接の定義

スポット溶接は、一対の電極で2枚の母材を挟み込み、加圧しながら大電流を短時間流すことで、接触部の電気抵抗によるジュール熱で母材を溶融させ、冷却・凝固させて接合する抵抗溶接の一種です。

スポット溶接の特徴

「ナゲット」と呼ばれる溶融凝固部が形成されることで接合が完了します。溶加材(溶接棒など)が不要です。

スポット溶接のメリットとデメリット

1)メリット

  • 高速、自動化が容易で生産性が高い。
  • 局所的な加熱で済むため、母材への熱影響(ひずみ)が少ない。
  • コストが比較的低い。

2)デメリット

  • 接合できる板厚や材料の組み合わせに制限がある。
  • 接合部(ナゲット)の目視確認が難しい。

スポット溶接の4大条件

スポット溶接の品質は、①電流、②加圧、③通電時間、④電極(チップ)のバランスに大きく依存します。これらの基本的な知識とデータ取り、試験が重要になります。

スポット溶接の主な用途

  • 自動車産業:車体の製造(ボディパネル、フレームなど)。軽量化と高強度化の両立に不可欠。
  • 電気・電子産業:電子部品の接合、電池の端子接合(バッテリーパック)など。
  • 家電製品:冷蔵庫、洗濯機などの外装や内部構造。
  • 建築・建設:薄板構造物の接合。

スポット溶接で剥がれが起こる原因

スポット溶接の剥がれは、主に「溶接条件の不備」「母材表面の不備」「材料の特性や外部要因」の3つのカテゴリに分けられます。

【溶接条件の不備】

1)電流値不足または過剰

  • 電流値不足:発生熱量が不足し、ナゲットが形成されないか、または小さすぎる(小ナゲット)状態になる。結果、接合強度が不足し剥がれる。
  • 電流値不足の主な原因:設定ミス、電源電圧の変動、溶接機の老朽化、ケーブルの抵抗増大など。
  • その他の原因:上部、下部アーム内に大幅に製品を入れ込まなくてはいけない場合や、強磁性である場合は、鋼板の寸法や電極に対する相対位置によって溶接電流が変化する。また、多方面にスポット溶接箇所がある場合は、さらに複雑になります。
  • 電流値過剰:発生熱量が過多となり、ナゲットが過大になる、または溶融金属が飛散する「スパッタ」(ちり)が発生する。スパッタはナゲット形成を妨げ、電極消耗も早め、結果的に強度不足や剥がれの原因となる。

※参考:スポット溶接の品質不良「電流値不足の原因」

2)電圧が低すぎまたは高すぎる

  • 電圧低下/過剰:供給電力が不足/過多となり、結果として必要な溶接電流が流れない・あるいは流れすぎてしまい、強度不足やスパッタの原因となる。

3)溶接速度(通電時間)が速すぎまたは遅すぎる

  • 時間が少なすぎる(速すぎる):十分な溶融が得られず、強度不足となる。
  • 時間が過度である(遅すぎる):飛散がはじまり、ナゲット内の“巣“を拡大させてしまう。

※参考:スポット溶接の品質不良「通電時間」

4)加圧設定の不備

  • 加圧力不足:溶融時に一気に1500℃くらいまで上昇し、上下チップ方向に動こうとする溶融部分を抑え込めず、「ちり」が発生し飛散する。本来ナゲットを形成する金属が飛び出すことで、ナゲット径、密度などに影響し、十分な結合力を得られなくなる(ただし、ごく少量の「ちり」は、よい溶融の目安になる)。
  • 過度な加圧:くぼみ径を大きくするだけであり、適切なバランスが必要。

※参考:スポット溶接の品質不良「加圧設定」

5)分流と打点数の不備

  • 分流(シャント):溶接電流が、本来溶接箇所に集中して流れなければいけないところ、他の箇所から流れてしまう現象のことです。
    隣接するスポット打点位置の場合、1打点目の溶融部に2打点目に集中して流れなければいけない電流が分かれてしまい、2打点目に必要な溶け込みが起こらないことがある。
    板厚1.0~2.0mmでピッチ20ミリを切る場合は分流が起きています。
  • アーム部分に製品が接触:電流が他からも流れてしまい、チップ部分に必要な電流が流れない。

※参考:スポット溶接の品質不良「打点数」

【母材表面の不備】

1)汚れ、油分、塗膜、酸化物などの付着

  • 付着物の影響:汚れ・油分・塗膜・酸化物などの異物は、母材間の電気抵抗を不安定にしたり、抵抗値を過度に増大させたりし、ナゲットのばらつきや接合不良、スパッタの原因となる。
  • ニッケルメッキ同士のスポット:一見溶融したかのように感じられても、実はメッキ部分のみが溶融し、大事な金属部分が溶け合っていないことがある。
    メッキを施した板材同士のスポットでは、必ず2段通電(初期電流でメッキを溶かす、2段通電目で金属を溶かす)といった作業が必要です。1通電ではナゲットの中にメッキが入り込み(不純物として)ナゲット強度不足気味になることがあります。

2)サビや油焼けなどがある

  • 処理鋼板の目付け(メッキ厚)の差:材料メーカーの処理鋼板であっても、生産ロット違いによって実物との目付け(メッキ厚)の差があることが考えられる。「テストピースでは溶けたが実物ではとれちゃった」という話は、材料の生産ロット違いが原因となる場合がある。

【材料の特性や外部要因】

1)母材と溶接金属の膨張率が違う

  • ナゲット硬さ:異種材溶接で強度低下が著しいSUS304とSPCCの組み合わせではナゲット硬さが400Hvとなり硬化が著しい。結果、ナゲット内の割れ感受性が強度低下を招いている。
  • SUS材の特性:SUS304は線膨張係数が大きいことから、シートセパレーション(溶接時に母材が離れる現象)が起こりやすく高温での強度も高いため、高加圧力条件が推奨される。

2)冷却が不適切と電極(チップ)の状態

  • 電極の冷却不足:表面の凹凸が酷くなると十分な冷却を行わず、「熱的平衡に至る」過程に影響を及ぼし、溶接品質が不安定になる。
  • 作業姿勢の違い作業姿勢の違いによって電極の冷却状態が変わることで、品質に影響を及ぼす。

※参考:スポット溶接の品質不良「電極・ナゲット硬さ」

スポット溶接の剥がれ対策

剥がれを防止するためには、原因に基づいた多角的な対策が必要です。

溶接条件の最適化(電流・電圧・速度・加圧)

  • 溶接スケジュールの確立:適正な電流、加圧、通電時間のバランスが大事。
  • 分流対策(電流値の調整):隣接するスポット打点位置の場合、1打点目と2打点目の電流値を変える(2打点目を20%〜30%あげる)作業を行うことが必要。たがね試験などで明らかな差が出る。
  • 2段通電の採用:メッキ鋼板などでは、初期電流でメッキを溶かし、2段通電目で金属を溶かす「2段通電」作業を必ず行う。
  • 加圧設定の適正化:適切な加圧力設定で溶融部分を抑え込み、「ちり」(スパッタ)の飛散を防ぐことでナゲット径と密度を確保する。
  • 打点数と強度:強度の観点からスポット箇所を多く設ける設計者の方もいるが、打点数=強度とも限らない。精密板金では適度なバランスが重要。

溶接前処理の徹底(汚れなどの除去)

  • 脱脂・清掃:溶接前に、母材表面の油分、汚れ、サビなどを完全に除去する。
  • ロット管理:「テストピースでは溶けたが実物ではとれちゃった」を避けるため、基本は同じ材料ロットでテストを行うことが重要。

冷却方法と電極(チップ)の改善

  • 電極の清掃・ドレッシング:メッキ鋼板などのスポットではチップにメッキが付着し、適切な電流が流れなくなるだけでなく、表面が荒れるため、数回に1回チップのドレッシング(削る行為)を行う。
    ドレッシングは、物理的に上下アーム、ホルダー、チップのバランスを常に変えることになるため(チップが短くなる)、ホルダー角度が内側に入り込み加圧力の分散、物理的なズレを生む可能性があることに注意する。
  • 分流対策(絶縁処理):アームやチップに当たってしまう箇所には、上から下にチップを通って流れなければいけない電流が他へ流れるのを防ぐため、絶縁テープなどを巻く。熱で溶けにくいシリコン系のテープがよく使われる。
  • チップ形状の選択:R型はまず小さな径のナゲットが出来、通電時間と共に拡大する。
    C型(平ら)では比較的ナゲット径が大きく時間での変化は少ない。

破壊検査による対策

溶接後の品質を客観的に評価し、対策の有効性を確認するためには、検査が不可欠です。

破壊検査の重要性と種類

テストピースによるピール試験(引張剥離試験)、たがね試験、ねじり試験は基本的な試験方法ですが、現場で多用されるものはねじり試験です。

ただ、ここで気を付けなければいけない事は、あくまでもテストだという事。重要なのは実物での破壊検査、これに尽きます。

都留の破壊検査

スポット溶接の強度は、溶接部分が外力に対してどの程度耐えられるかを示す指標です。強度の指標として、以下の2つがあります。

  • 引張せん断強度:溶接部を横方向に引っ張った時の耐力を検査
  • 十字引張強度:溶接部を垂直方向に引き剥がす時の耐力を検査

これらの強度を検査するために、破壊検査という手法を用います。
破壊検査とは、通常はニッパーのようなもので引っ張ったりねじったりしながら垂直および左右方向の強度を確かめ、実際にどの程度で剥がれるのかを確認します。
より詳しく知りたい方は、以下の記事を参照ください。

※参考:
スポット溶接の強度を徹底解説!強度不足になる原因と、スポット溶接とファイバーレーザー溶接の「強度比較」

検査結果のフィードバック

最終的には、検査データと製造条件を紐づけ、品質問題発生時の原因究明を迅速に行える体制を構築することが重要です。

まとめ

スポット溶接の剥がれは、単なる不良ではなく、製品の信頼性や安全性を脅かす重大な問題です。

剥がれの主な原因は、溶接の4大条件(電流、加圧、通電時間、電極)のバランスの崩れ、母材表面の不備(メッキ厚の差、汚れ)、そして電流の分流などの実務的な要因に大別されます。

これらの対策として、溶接条件の最適化(2段通電、分流対策含む)、溶接前処理の徹底(ロット管理)、冷却方法と電極管理の改善は、品質安定化のための三本柱となります。

最終的に、、実物での破壊検査による確実な品質検証と、その結果を迅速に製造工程に反映させるフィードバック体制を構築することで、スポット溶接の「剥がれ」を未然に防ぎ、製造プロセスの高い信頼性を実現することができます。

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